松田聖子 ボーイの季節 1985年 尾崎亜美が
作詞・作曲した同年1月発売のシングル
「天使のウインク」と5月発売の
「ボーイの季節」そして6月に発売された
11作目のアルバム『The 9th Wave』である。
松田聖子の80年代全シングルのなかでも
印象が薄く、不遇な曲ですが「ボーイの季節」は
80年代前半の歌謡シーンを駆け抜けた
松田聖子の第1幕を締めくくるのに
ふさわしい楽曲で独身時代最後のシングル

もともと「ボーイの季節」は、アニメ映画
『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』の
主題歌として制作され聖子が歌った
「SWEET MEMORIES」が流れるサントリーの
CMに登場するペンギンがキャラクターの
映画で中川右介氏の著書『松田聖子と中森明菜』
(朝日文庫)によれば、当初、シングルと
しての発売予定はなかったが、休業が
急きょ決まったのでリリースしたらしい。

松田聖子がそれまでに発売したシングル曲中
これほど切ない曲はない。
バラード調の「ガラスの林檎」や
「瞳はダイアモンド」からも哀愁は
感じるが、切なさはそれほど感じない。
しかし「ボーイの季節」からは、幸せだった
過去をいつくしみ、あの時に戻りたいという
切なさが強烈に伝わってくる。

 夢よ いかないで
 Please don’t take my dream
 強い風が吹く丘で
 少年の頃に見た
 夏に逢える…

尾崎亜美さんのこの曲はさまざまな
解釈が可能だが、私は「ボーイの季節」を
主人公の女性が少女の頃に恋人の少年
(ボーイ)と作った夏の思い出を回想する
歌だと受け止めた。
成長して大人の入口に立った主人公は
思い出の地である「強い風が吹く丘」を
再び訪れる。思い出を振り返るうちに
切なさがこみ上げる。スローでどこか
寂しげなメロディーの魔力が、感情を
引き立てる。

時よ いかないで
Keep me, Summer time
あなた遠くを見てるの
妬けるほど 熱い目を
夏に向けて

少女は少年が大好きだった。
しかし少年は、自分よりも夏に
目を向けていた。
そのことに、過去の自分は嫉妬していた。

収録アルバム「The 9th Wave」の作詞家は全て女性
「ボーイの季節」が収録されたアルバム
『The 9th Wave』は、尾崎亜美を含め
作詞家は全て女性。
収録された楽曲からは、もう一人の
自分が今の自分を眺めているような
冷めた感情と一抹の寂しさが
感じられる。
花嫁となる聖子が松本隆と歩んだ
過去をこのアルバムでリセットした
気がしてならない。

ファンがよく語るように、独身時代の
聖子は「裸足の季節」から始まり
「ボーイの季節」で終わった。
夏に愛を求めて走り出し、春夏秋冬を
縦横無尽に駆け回った聖子。
その終わりを締めくくった季節は、
やはり夏だった。しかし、彼女が
思い出を作ったボーイは、もういない。
そして聖子も、結婚という区切りとともに
少女を歌ったアイドルとしての
過去を封印したかったのかもしれない。

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