ソプラノはマリア・ガルヴァニー(Maria Galvany)、イタリア語歌唱による1910年頃の録音で。以前ニコニコ動画にアップした音源の再アップロードです。
えっ、「編集」疑惑ですって!?それじゃあ「加工」なんて一切していない証拠にオリジナル音源の入手先を置いときますよ、そら↓
http://cylinders.library.ucsb.edu/search.php?queryType=@attr+1=1020&num=1&start=1&query=cylinder2353
※↓長いけど読んでほしい、興味深いトリビア↓※
この録音が行われた1910年代は、マスター音源に大きなラッパを通じて「ワックス」と呼ばれる円盤(この音源の場合はロウ管と言ってエジソンが発明した円筒型のタイプ)に対して電気を一切使わずに音を記録していた「機械録音」(別名「ラッパ録音」「アコースティック録音」)の時代です。
1925年にはマイクロフォンを使った「電気録音」が開発されて録音される音域が大幅に広がったため音質が向上しますが、それでもマスターは従来通り高価なワックスが使われ、録音前にテイク違いのワックスはいくつか用意出来ても基本は「一発録り」が原則でした(以前NHKの「みんなのうた」のラジオ特番の放送にて今は亡きペギー葉山御大の曰く「私がデビューしてテレビにも出始めた1950~60年代は、戦前から活躍している先輩の歌手は一発録りに強かった」とのこと)。
音の加工が簡単になるのは1949年の磁気テープの実用化以降で、レス・ポールやパティ・ペイジといったアーティストが多重録音を採用し、今日のように人工的に編集された音楽が聴かれるようになります。
つまり1949年より前の古い歌唱・演奏の記録、例えばこのガルヴァニーをはじめクラシックのヤッシャ・ハイフェッツやウラディーミル・ホロヴィッツ、ジャズのアート・テイタムにジャンゴ・ラインハルトといった神業のような超絶技巧の名手の録音は、スタジオ録音であっても全く無編集の、「実演がそっくりそのまま再現されたもの」なんですよ。
※↓説明追記(2020.1.19)↓※
「カデンツァがまるでフルートみたいだ!」との声が多いので、少し解説しますよ!。
現代の声楽、わけて女声の歌唱法では「胸声」を中心に歌いますが、マリア・カラス以前、つまり第二次世界大戦終結以前の歌手は「頭声」を使います。
その頃の歌唱法で歌われた録音を聴くと(特に蓄音機で)、胸声がメインである現代のドラマティックな感情を催し観客を感動の坩堝へ落とし込む歌唱に比べて、声の大きさは弱いものの実に柔らかく繊細で、まるで美しい織物を直接自分の手で愛撫するかのような感覚を聴き手に起こさしめ、特にソプラノのカデンツァの部分はマリア・ガルヴァニーのこの録音同様に、聴いているとまさに「声が木管楽器と一体化」してしまったかのような気がするのです。
代表的な歌手をいくつか挙げてみましょう↓
1. Sp:ネリー・メルバ弾き語り『埴生の宿』
(1921年録音。20世紀前半にディーヴァと言われた歌手。今もあるスイーツの「ピーチ・メルバ」はこの人にちなんで名づけられました)
2. Sp:メアリー・ガーデン、ドビュッシー作曲『我が心にも雨ぞ降る』
(1904年録音。ドビュッシーの歌劇『ペレアスとメリザンド』初演でメリザンド役をした人です。ピアノ伴奏はなんとドビュッシー本人!)
3. Sp:ルイーザ・テトラッツィーニ、プロッホ作曲『おお!恋人よ、帰れ』
(1911年録音。ドキュメンタリー『アート・オブ・シンギング』に蓄音機の前で歌う映像が残っていた人です)
4. Ms:コンチータ・スペルヴィア、ファリャ作曲『7つのスペイン民謡』
(1933年録音。スペインの歌曲を歌わせると当時一番と言われましたが、残念ながら出産に失敗して夭折した惜しい歌手です)
…私の主張ですが、音楽の動画であればこの「検索したら上位に出てくる今バズっている、しかも再生回数の多いこの動画」は偶然バズったおかげで「歴史」の中から掬い取られて現代に蘇りましたが、「検索しても下位にしか出ない、再生回数の少ない古臭そうな動画」は「アーカイブス」、もっと言えば「歴史」の中に埋没してしまい、しかも今顧みる人が一部の趣味人だけに限られているために、「同じ言葉で検索する」という行為をしても中々知られることはないですよね。でも、「流行っている」「沢山再生されている」だけが「いい音楽のすべて」ではありません。
これをお読みのあなたも折角「同じ言葉」で検索したのだから、是非とも「日の目を見ない動画」にもたまには再生してみると、案外面白い発見があるかもしれませんよ…?
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